2021年07月04日
探偵は俺の稼業(ビジネス)
第二話
「出て来い!スパイ野郎!」
不意に暗闇から怒号を浴びせられた。
俺は腰に付けたサファリランドのフロント・ブレイクのホルスターから
コルト・ナショナル・マッチ・マークⅣ・シリーズ70を
引き抜くと、遊底を一杯に引きドングリの様な.45ACP弾を薬室に送り込んだ。
左手で右手を引き付ける様にしながら拳銃を両手で構えた。
言葉にすると長ったらしいが二秒もかからずに俺はその作業を遣って退けた。
『俺だ!雇われ探偵だ!!』
拳銃を構えながら闇の中に怒鳴り返した。ポケットの中に万年筆型の
懐中電灯が有るが、光源に向けて撃たれたく無いので点灯しないでおいた。
「あぁ、なんだ先生ですかい。」
『なんだ、とはご挨拶だな。後、先生ってのも止めてくれ。』
「いや、滅相も御座いやせん。失礼しやした。」
俺はナショナル・マッチ・マークⅣのハンマーに親指を掛けて、
トリガーをゆっくり引きながらハンマー・セフティを掛け、
腰のホルスターにナショナル・ナッチのガバメントを戻した。
『何があった?何の騒ぎだ?』
「いや、実は我々の軍団員の中にスパイがいたんでさぁ。」
『どうも最初に依頼を受けた時と話が違う様だな?』
「いやはやどうも添けねぇ。」
『なるほど、最初から説明してもらおうか?』
「先生には敵いませんや。勘弁して送んなせぇ。」
『そうは云ってもなぁ。だとしたら色々違ってくるぜ。』
俺は依頼主の仲介のチンピラに毒舌を噛ました。
元々は俺が銃を抜く事は無かった筈だった、少なくともこのCaseでは。
所で、コルト・ナショナル・マッチ・マークⅣ・シリーズ70にはG.Iコルトとは違った仕掛けがある。
シアー・ディプレッサーという装置で射手にトリガー・プルが
軽くなった様な錯覚を起こさせるシステムだ。
只、静的射撃には都合が良いが、動く標的を撃つ場合には不具合がある。
それは所謂、2ステージ・トリガーだからだ。
シアーにバネ仕掛けでトリガー・プルとは真逆のテンションを与え、応力を軽減させる。
実際には軽減してはいないが、射手にはそう感じられる。
その弊害として一発撃つ毎にトリガーを正位置まで戻さなくてはならない。
相手が銃を持った人間が主な標的の俺にとっては命取りになる事が多いので
俺のナショナル・マッチではシアーをG.Iコルトの物に替えてある。
そうでないと一発撃つ毎にトリガー・フィンガーを戻さなければならない。
動的を対象とした「コンバット・シューティング」には不利になる。
そう云った理由で俺のナショナル・マッチは或る意味デチューンされている。
勿論、納得済みでスケルトン・スライドも強度の関係で交換済みだが。
『大体、依頼主の社長はなんと云ってたんだかな?』
「いや、先生。勘弁してくだせいよ。」
『随分、殊勝じゃないか?全部喋っちまえよ!』
「いやはや、先生には敵いませんや。社長には内緒にしてくだせぇ。」
『まぁ、お前さん次第だな。』
「これは手厳しい。実は社長は、、、」
仲介のチンピラが言い終わる前にいきなり、タイプ・ライターの様な連続音が響いた.
俺は咄嗟に草叢に転げ込むと右手のナショナル・マッチを顔の中心に構えながら
地面に伏せて用心した。
信じたくはないが機関銃であろう。
チンピラは、信じられぬと云った表情を浮かべながらも襤褸の様に銃弾に引き裂かれた。
短機関銃なら何とかなるが、機銃弾だと厄介だ。
俺は松の木の植え込みに隠れ乍ら敵を感じようとした。
心臓が早鐘を打ち喉が空々になってくる。
無性に煙草を吸いたい衝動に囚われながら俺は暗闇に眼を凝らした。
どうやら短機関銃の様だ。
相変わらず、乾いた連続発射音が聞こえる。
俺は芋虫の様に這いずり乍らも短機関銃の射手の反対方向へ移動した。
漸く、短機関銃の射手の後ろ側に来た俺は短機関銃の射手に声を掛けた。
『そこまでにして貰おうか。俺の銃があんたを狙ってるぜ。俺は背中を撃つのを卑怯とは思わないからな!』
「いや待て、待ってくれ。」
『ほう、一体何を待ってくれと云ってるんだ?』
俺はナショナル・マッチのサム・セーフティを掛けたり外したりしながら短機関銃の射手に声をかけた。
まぁ、半分以上は威嚇だが。
「俺は依頼されただけで詳しい話は知らねえんだ!」
『詳しい話を知らずに短機関銃をぶっ放したと。聞き捨てならねえな。』
「いや、違うんだ!誤解だ!!」
悲鳴の様な声を上げて短機関銃の射手は両手を挙げたまま答えた。
続く
「出て来い!スパイ野郎!」
不意に暗闇から怒号を浴びせられた。
俺は腰に付けたサファリランドのフロント・ブレイクのホルスターから
コルト・ナショナル・マッチ・マークⅣ・シリーズ70を
引き抜くと、遊底を一杯に引きドングリの様な.45ACP弾を薬室に送り込んだ。
左手で右手を引き付ける様にしながら拳銃を両手で構えた。
言葉にすると長ったらしいが二秒もかからずに俺はその作業を遣って退けた。
『俺だ!雇われ探偵だ!!』
拳銃を構えながら闇の中に怒鳴り返した。ポケットの中に万年筆型の
懐中電灯が有るが、光源に向けて撃たれたく無いので点灯しないでおいた。
「あぁ、なんだ先生ですかい。」
『なんだ、とはご挨拶だな。後、先生ってのも止めてくれ。』
「いや、滅相も御座いやせん。失礼しやした。」
俺はナショナル・マッチ・マークⅣのハンマーに親指を掛けて、
トリガーをゆっくり引きながらハンマー・セフティを掛け、
腰のホルスターにナショナル・ナッチのガバメントを戻した。
『何があった?何の騒ぎだ?』
「いや、実は我々の軍団員の中にスパイがいたんでさぁ。」
『どうも最初に依頼を受けた時と話が違う様だな?』
「いやはやどうも添けねぇ。」
『なるほど、最初から説明してもらおうか?』
「先生には敵いませんや。勘弁して送んなせぇ。」
『そうは云ってもなぁ。だとしたら色々違ってくるぜ。』
俺は依頼主の仲介のチンピラに毒舌を噛ました。
元々は俺が銃を抜く事は無かった筈だった、少なくともこのCaseでは。
所で、コルト・ナショナル・マッチ・マークⅣ・シリーズ70にはG.Iコルトとは違った仕掛けがある。
シアー・ディプレッサーという装置で射手にトリガー・プルが
軽くなった様な錯覚を起こさせるシステムだ。
只、静的射撃には都合が良いが、動く標的を撃つ場合には不具合がある。
それは所謂、2ステージ・トリガーだからだ。
シアーにバネ仕掛けでトリガー・プルとは真逆のテンションを与え、応力を軽減させる。
実際には軽減してはいないが、射手にはそう感じられる。
その弊害として一発撃つ毎にトリガーを正位置まで戻さなくてはならない。
相手が銃を持った人間が主な標的の俺にとっては命取りになる事が多いので
俺のナショナル・マッチではシアーをG.Iコルトの物に替えてある。
そうでないと一発撃つ毎にトリガー・フィンガーを戻さなければならない。
動的を対象とした「コンバット・シューティング」には不利になる。
そう云った理由で俺のナショナル・マッチは或る意味デチューンされている。
勿論、納得済みでスケルトン・スライドも強度の関係で交換済みだが。
『大体、依頼主の社長はなんと云ってたんだかな?』
「いや、先生。勘弁してくだせいよ。」
『随分、殊勝じゃないか?全部喋っちまえよ!』
「いやはや、先生には敵いませんや。社長には内緒にしてくだせぇ。」
『まぁ、お前さん次第だな。』
「これは手厳しい。実は社長は、、、」
仲介のチンピラが言い終わる前にいきなり、タイプ・ライターの様な連続音が響いた.
俺は咄嗟に草叢に転げ込むと右手のナショナル・マッチを顔の中心に構えながら
地面に伏せて用心した。
信じたくはないが機関銃であろう。
チンピラは、信じられぬと云った表情を浮かべながらも襤褸の様に銃弾に引き裂かれた。
短機関銃なら何とかなるが、機銃弾だと厄介だ。
俺は松の木の植え込みに隠れ乍ら敵を感じようとした。
心臓が早鐘を打ち喉が空々になってくる。
無性に煙草を吸いたい衝動に囚われながら俺は暗闇に眼を凝らした。
どうやら短機関銃の様だ。
相変わらず、乾いた連続発射音が聞こえる。
俺は芋虫の様に這いずり乍らも短機関銃の射手の反対方向へ移動した。
漸く、短機関銃の射手の後ろ側に来た俺は短機関銃の射手に声を掛けた。
『そこまでにして貰おうか。俺の銃があんたを狙ってるぜ。俺は背中を撃つのを卑怯とは思わないからな!』
「いや待て、待ってくれ。」
『ほう、一体何を待ってくれと云ってるんだ?』
俺はナショナル・マッチのサム・セーフティを掛けたり外したりしながら短機関銃の射手に声をかけた。
まぁ、半分以上は威嚇だが。
「俺は依頼されただけで詳しい話は知らねえんだ!」
『詳しい話を知らずに短機関銃をぶっ放したと。聞き捨てならねえな。』
「いや、違うんだ!誤解だ!!」
悲鳴の様な声を上げて短機関銃の射手は両手を挙げたまま答えた。
続く

2012年09月11日
探偵は俺の稼業

探偵は俺の
それはうらぶれた街角の古びた路地にある。
煤けた煉瓦作りのビルの三階が俺の事務所だ。
第一話
その日、1日の業務を終えた俺は
机上に放りだしたままの書類を雑に片付けた。
酒でも飲もうと酒棚に手を掛けたが、
コーンビーフとウヰスキーだけでは侘びしすぎる。
かといって、繁華街に出掛けて行くには些か億劫な時間であった。
「さて、どうしたものか」
紫煙を燻らせながら考えあぐねていると
不意に電話が鳴った。
「もしもし?その節はどうも…」
どうやら、先日世話をした依頼者らしい。
「とても助かりました。一席設けますので是非」
俺は急に頬が緩むのを押さえながら電話の主に応じた。
「わかりました。有り難くお受け致します」
そう答えて電話を切り、身支度をはじめた。
上着を脱いだ後、右腰の重しを手に取った。
コルト・ディテクチブ・スペッシャル。
獅子鼻(スナッブ・ノーズ)の回転式拳銃だ。
六連発だが小型で軽量なので携行にぴったりだ。
なにぶん業務上に必要なので嵩張らない方が都合が良い。
大抵の場合、護身用というよりは威嚇用途での使用なのだが
幸いというかこの銃だけは日本では未だ発砲したことは無い。
俺は依頼者の顔を思い浮かべながら腰の革ケースを外すと
右足の脛に括り付けた。
(まぁ、用心するに超した事は無いからな)
自分に言い訳しながら身支度を終えた俺は部屋を出て、
路地まで出向くとタクシーを拾い、行く先を告げる。
(今夜も使うことは無いといいが…)
すっかり帳を下ろした夜の街に目を向けた俺は
これから始まる酒宴を思いながら右脚のコルトの感触を確かめた。
―了―