2012年09月11日
探偵は俺の稼業

探偵は俺の
それはうらぶれた街角の古びた路地にある。
煤けた煉瓦作りのビルの三階が俺の事務所だ。
第一話
その日、1日の業務を終えた俺は
机上に放りだしたままの書類を雑に片付けた。
酒でも飲もうと酒棚に手を掛けたが、
コーンビーフとウヰスキーだけでは侘びしすぎる。
かといって、繁華街に出掛けて行くには些か億劫な時間であった。
「さて、どうしたものか」
紫煙を燻らせながら考えあぐねていると
不意に電話が鳴った。
「もしもし?その節はどうも…」
どうやら、先日世話をした依頼者らしい。
「とても助かりました。一席設けますので是非」
俺は急に頬が緩むのを押さえながら電話の主に応じた。
「わかりました。有り難くお受け致します」
そう答えて電話を切り、身支度をはじめた。
上着を脱いだ後、右腰の重しを手に取った。
コルト・ディテクチブ・スペッシャル。
獅子鼻(スナッブ・ノーズ)の回転式拳銃だ。
六連発だが小型で軽量なので携行にぴったりだ。
なにぶん業務上に必要なので嵩張らない方が都合が良い。
大抵の場合、護身用というよりは威嚇用途での使用なのだが
幸いというかこの銃だけは日本では未だ発砲したことは無い。
俺は依頼者の顔を思い浮かべながら腰の革ケースを外すと
右足の脛に括り付けた。
(まぁ、用心するに超した事は無いからな)
自分に言い訳しながら身支度を終えた俺は部屋を出て、
路地まで出向くとタクシーを拾い、行く先を告げる。
(今夜も使うことは無いといいが…)
すっかり帳を下ろした夜の街に目を向けた俺は
これから始まる酒宴を思いながら右脚のコルトの感触を確かめた。
―了―